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JAZZ音響塾に参加して(アンケート結果) 林 洋子 毎年3月下旬に行われるJAZZ音響塾。JAZZ音響塾は高砂高校のジャズバンド部、BFJOの生徒さんが演奏を引き受けてくれ、その演奏に対して音響がどのようなアプローチをするか、聴きながら見ながら体験をするものである。 今年は3月21日に仕込み、中一日空いて23日に音響塾となった。私も数回参加しているが毎年違った発見があり、もちろん今回も新たに気づいた事があった。 このレポートで取り上げるのは実演に対して講習生他、見に来ていたお客さんにアンケートを取った、ビッグバンドにおける音響支援に関する項目である。
全体の音響支援について ホールに見合う音響、音量とは何かというテーマがあった。 今年も会場は毎年恒例となった明石生涯学習センター、デッド過ぎず、響き過ぎもしないホールでビッグバンドをやるにあたっては大きすぎず小さ過ぎない手頃なホールであると思う。 今回の音響支援のマイクのプランは、マイクのまったくないセクションはなく、トロンボーン, トランペットが2本でマイク1本を除けばマルチでセットされたプランだった。 演奏に対して音響支援を行い、3択でアンケートを取ったものが以下である。 ・ スタンダードだと思われる音響支援有り 16人 ・ 全く音響支援しない 16人 ・ 大幅に音響支援する 7人 会場にいた全員が手を挙げた訳ではないが、大半の人々が極端な音響支援をせずとも音量的には足りていると感じていることになる。しかも、音響支援が全く必要ないと考えている人も非常に多い。では、なぜこのような状況においても音響支援が必要なのか。それは全体の音量は十分でも全パートが譜面通りに聴こえていないから、という理由だった。 確かにピアノ、ギターといったリズムセクションの一部がブラスセクションに埋もれてしまって弾いているようだけれど、鳴っているのか鳴っていないのかよくわからない。従って、ブラスセクションに対して弱すぎるということで、音量を支援する必要がある、ということだった。 では、ブラスが足りているのならブラスは音響支援をせずに、リズムセクションに対してのみ音響支援をすればよいのでは考える人がいるかもしれない。 これに対しては、自分の中でなんとなく答えが出ている。 今回はホールがよく響いて、実験してもそんなに違和感がなかったが、楽器を少なからずやる身としては、やはり機械によって増幅された音と、生音はまったく別物であると思う。マイクで増幅されたものはどうしても妙にクセがあって、音の輪郭がくっきり出過ぎてしまう感じを受ける。 当然といえば当然だが、マイクが拾ってスピーカーから飛ばしている音は、楽器に耳をつけて聴いているようなものなので、これを自然にステージから飛んでくる生のブラスとMixして、自然な音を作り上げるというのはとても難しい、というか、土台無理な話ではないかとさえ思ってしまう。 よってブラス、リズムセクションの両方をスピーカーから出す必要があるが、全体の音量を稼ぐ目的ではないので、ブラスの音量をさほどあげず、リズムセクションのレベルを上げて、バランスをとる事が重要である。 すると、あまりにスピーカーから出しています!!という音ではなく、音響支援ができるのではないかと思う。 ちなみに音響支援に関する余談で、ステージが大きな会場で、楽器の位置とスピーカーの位置があまりに離れている際には、スピーカーにアウトディレイをかけて遅らせることがある。 スピーカーで発音するタイミングを、生音がスピーカーに届くまでの時間分遅らせることにより、マイクでひろった音が生音より先に聴衆の耳に入ることを防止する。これによって、ディレイをかけない状態に比べて、生音に近い音で聴衆に音をとどけることができる。
リズムセクションの音量 さて、全体に音響支援をするとして、リズムセクションに対してはどれくらいの音量が適当なのか。これもまた3択でアンケートを実施した。 ・ スタンダードだと思われる音響支援有り 26人 ・ 全く音響支援しない 4人 ・ 大幅に音響支援する 4人 まったくなしだと先も述べた通り、若干もの足りないような気がする。がっつりとスピーカーから出すと、ちょっとジャズバンドというよりはロックに近くなるのか。もちろんスウィングという大きな違いがあるが、ジャズとロックの違いはリズムセクションによるところが非常に大きいと思う。 ひたすらしっかりと縦を刻むロックに対して、ジャズはスキップさえしそうな軽さで跳ねていく。特にバスドラの役割において、ロックは留めるイメージに対してジャズは流すイメージがある。 従ってある程度リズムが軽くないと、跳ねるどころではなくなってしまう。そこでリズムが留って下手するとマーチになってしまうかもしれない。今回はさすがにそんな極端な実演はなかったが、音量がありすぎると、やはり幾分か重く感じるので、極端な音響支援はいらないことがわかった。 さらに、ビッグバンドの場合、全パートが聞こえなくてはならないが、リズムセクションに限ってはそんなにはっきり聞こえる音量はいらないとアドバイスいただいた事がある。あー鳴ってるなー、という音量でいいそうだ。今回の実演だと、リズムセクションをしっかりと音響支援すると、よしよししっかり聞こえる!というレベルだった。 ギターのバランスがこれまた難しく、楽器の帯域的にもピアノやドラムのスネアと被るところにいて、自分でミックスしているうちになんだかよくわからなくなっている、という状況がたびたびあった。ギターにおける鳴っているなー、という状況は、カッティングのきっかけが聞き取れて、中で、あー動いているなーと判ればいいらしい。この音量だとピアノとギターでずれるようなものでもと程よいバランスで聴けることがわかった。
ソロに対するリバーブのアプローチ ビッグバンドでは必ず見られるソロ。アンサンブルの中から一人出てきてステージのセンターで自分の腕前を披露するもので、リバーブをかけることが多い。 では、リバーブをどれくらいかけるのが適当なのか。これもまた3択でアンケートを実施した。 ・ スタンダードだと思われる量 (少しつやっぽい)17人 ・ 全くかけない 20人 ・ 大幅にかける (お風呂場ほどとは言わないまでも) 10人 確かにソロの時は立ち位置も一歩前に出る、マイクもソロマイクが独占できることから、聴衆がソロを聞き逃すことは非常に少ないと思われる。よって会場によっては必要ない場合もあるかもしれない。また、今回使用したホールだとリバーブをかけずともホールの中で響いて、しかも中で吹いているのとはひと味違うことも聞き取れた。 とはいえど絶対に旋律であるためか、リバーブをかけないよりしっぽを引っ張りすぎない程度にかけた方がいい、と感じた。それはボーカルにリバーブをかけたくなるのと非常によく似た感覚だと思う。 ならば、せっかくのソロだし、盛大にかけたら気持ちいいのではないか、と思うかもしれない。実際に盛大にかけてみると、ソロとバンドの温度差に違和感がある。 単純にリバーブのかかり具合にあまりに差があるために妙な感じを覚えるだけかもしれない。だとすると、もしかすると、バンドにもちょっとリバーブをかければそんなに違和感はないのかもしれない。バンドにかけない場合には、バンドを「バックバンド」という立ち位置までさげない程度に、しかし確実にソロを聴覚的にソロと捉えさせるようなミックスが必要であると考えさせられた。
サウンドに対する年代の傾向 今の若い世代は下手をするとレコードもカセットテープも知らず、生まれたときからCDがある世代であることに最近気がついた。 レコードサウンドとCDサウンドの一番大きな違いはとにかく音の質であると思う。レコードに比べる比較にならないほどの高音質、立体的な音像、そしてスタジオで録っているとは思えないような残響感。 ロック、ポップス、演歌、クラシック。最近はどんなジャンルでもリバーブがたくさん使われているように感じる。スタジオ録音のドラムに、ボーカルに、ジャンルを問わず元の声と同量、あるいはそれ以上かと思わせるほどのリバーブがかかっていることもあれば、クラシックのシンフォニーですら、ライブ収録でも恐らく後からリバーブを足しているように感じることもあった。 リバーブの効果の一つに、広がりを与えることがあるためではないかと思う。 イヤホンを耳に突っ込んで聴いても、あるいはせまい部屋の中で小さなスピーカーを鳴らしていても、リバーブをたくさんかけることによって、あたかも大きなドームや、大きなホールで聴いているような臨場感が得られるからではないかと思う。 音楽の再生環境も手軽でいい音が好まれるようになるにつれ、聴く側のニーズに合わせてミックスもリバーブたっぷり傾向になり、その音で育った若い世代にとって盛大なリバーブの量が標準である。 今回、リバーブをかける量についてアンケートを実施し、盛大なリバーブを好んだのは10代の若い世代だった。楽器を演奏している彼らが、なぜビッグバンドでこんなリバーブを?と考えてしまったが、彼らの育ってきた時代を考えればごくごく普通のことなのかもしれないと思う。 なぜなら、逆にリバーブが不要であると感じていたのは高年齢と見受けられる人々で、見事に若ければ若いほどリバーブを好むことは一目瞭然だったからである。 同様に音量についても年代における傾向がすぐに掴めた。 全体の音量に対する音響支援が必要か否かも、必要ない→スタンダード→現状よりもっと、の3段階で調査したところ、確かに大多数がこれ以上の音響支援は必要ないと感じている訳だが、より音響支援が必要であると感じている人はいずれも高校生だった。また必要ないと感じているのは、これまた比較的年齢が高いと見受けられる人だった。つまり若年層になればなるほど音響支援が必要であると感じ、年齢が上がるにつれ音響支援は必要ないと感じていることがわかった。 さらに、どんな良いマイクを使用したとしても、楽器そのもの音とマイクを通した楽器の音では全然違う。従って音響支援をする割合が多くなれば多くなるほどマイクの音の割合が高くなる。音響しなければそれは生音100%。 従って若ければ若いほど大音量に慣れ親しみ、またもしかすると生音へのこだわりが薄いのではないかと思う。こだわりがないわけではないのかもしれないが、年代があがるにつれ生音ではない音に抵抗を感じているのかもしれない。 この調査をした際にそう感じたが、休憩時間にやはり協会の方々そのような話をされていたので、やはり、と確信を持った。
音響塾を通して 今回のJAZZ音響塾でビッグバンドにおけるミックスにおいてのポイントを学ぶことができたとともに、一般の聴衆、あるいは演奏者がどのようなサウンドを求めているのかを知ることができたことは非常に有意義であったと思う。 時代とともに、サウンドはとにかく綺麗で低音から高音まで万遍なく、あるいは人間の可聴領域より高い音域も必要であるという意見も出てきて、低音を重視する傾向になった。また、同時に音楽の再生メディアのみならず、一般向けに売られているヘッドフォンまでも、広い帯域を再生する技術と重低音をしっかり出す技術が発達し、いまやヘッドフォン売り場には重低音重視コーナー、ハイクオリティコーナーが設けられているような時代である。そのような時代に生まれ育ってきた世代は、当然高音質、低音重視世代であると考えるのが自然だと思う。そしてその高音質、重低音世代に問えば、リバーブが多い=高音質ではないが、今回のアンケートで、より音響支援が必要で、リズムセクションはもうちょっとパンチが効いていて、リバーブも多めで、という結果が出るのにも納得がいく。 これからその世代がどんどん増えていくのだから、彼らの世代ではない人が音響を担当すると、今日のライブもの足らなかったよね、となってしまうのだろうか、と考えてしまった。音楽は時代とともに形を変えるものだということは、今まで歴史を見れば一目瞭然だが、音楽の本質ではなく発表形態というか、音楽の聞き方、厳密にいうと演奏者本人ではない立場からの聴かせ方もきっと変わっていくのだろうか。演奏者と聴衆の好みに少しずつズレが生じていくのか、あるいは演奏者も新しい世代はその感覚を持って演奏するので、感覚のズレは生じないのか。はてまた演奏者が聴衆のニーズに合わせて演奏するのか。 これから先の演奏者と聴衆がそれぞれどういう主張をし合うのか、そして演奏はどう形を変えていくのか、あるいは変わらないのか、行く末に非常に興味が湧いた。5年も経てば、今回の調査結果よりも、より音響支援、リバーブ、パンチの効いたリズムセクションが必要、という結果が出るのだろうか。 来年も、そして来年以降もぜひ同じ調査をして結果を追ってみたいと思った。 (2010. 3.31) |