優良ホールを訪ねて・・・その13  2008年11月取材

埼玉県桶川市・響の森/桶川市民ホール


桶川市は、かつての中山道・桶川宿。「中山道もの」といわれる良質な麦や、紅花の産地として栄えていた。 「桶川(黒みがかった赤色)」の名で全国に知られた当地の紅花は、天明・寛政年間(1781〜1801)に栽培が始まったと伝えられ、 当時、山形県に次ぐ産地として知られていた。現在も紅花の名産地となっていて、染め物用を栽培している。
静かで穏やかな街、高崎線桶川駅の近くに「響の森・桶川市民ホール」がある。大きな公演が隣接し子供たちが遊んでいる。ホール施設に入ると広々としたホワイエが気持ちよい。ここも静かだ。
ホール設備は一般的で、自慢するところはない。他のホールに比べると少ないようにも見受けが、これだけの人数ですばらしい施設運営していることが自慢である。
そこは、経験豊かな高橋さんの人柄とやる気で巧くやっているのだと思う。数回、セミナーで利用させていただいたが、行き届いた対応は心地よい。民間劇場の制作と舞台技術の経歴がある高橋さんに、民間劇場スタッフの精神で公共ホールを運営すると、どのようになるかを伺った。

Q ホール運営スタッフの人数は多くないようですね。

高橋 委託でお願いしているサイオーさんから音響担当の黒瀧晉嗣さん、照明の町田直子さん、舞台進行の代田智子さんと、私プロパー職員の高橋三十四の合計4名で運営しています。

Q それでは、縦割りでなく、オールラウンドでやっているのでしょうか。

高橋 簡単な仕込み作業やバラし撤去撤収などは担当の区別なく、打ち合わせも含めてオールラウンドで対応しています。

Q 自主企画の公演も多いようですが、コンサートでの音響装置などもホールの設備で間にあわせているようですね。

高橋 可能なかぎり、ホールの備品機材を駆使して工夫していくように心掛けています。

Q 市民との交流も上手で、利用者の方々から信頼を得ているようにお見受けします。

高橋 まずは挨拶から明るく大きな声で、こちらから積極的に声をかけるようにしています。舞台業務に限らず、リハーサル室や練習室などでのお困りのことや要望なども何かありましたらご相談くださいなど一通りの挨拶のほかにも、できるだけお話をする機会を増やすようにしています。このようなことで、今まで気付かなかったことや見逃していたことが以外とわかってきます。

Q そのような心掛けは、高橋さんが民間劇場で学んで身に付いたことなのでしょうね。そして、自分たちの施設だけでなく、周辺の関連業の方たちとの連携もしている。癒着ではなく互いに快適になればいいのですから。近隣ホテルや施設内のレストランなど周囲の繁栄は、市の繁栄になり、市民ホールの発展にもつながります。

高橋 そのような一翼になれば幸いです。ホールという言葉は元々、集会所、人々が集まる所の意味なので、市民の皆様が気軽に気楽に来ていただける場所でなければならないと考えています。そして、その延長線上にいろいろな催しや公演があり、可能性が出てくるものと確信しています。

Q しっかりしたポリシーをお持ちですね。そのような方向からホールの在り方を見つめるということは最も重要です。芸術家気取りで腕組みをしていても恰好良くないですからね。施設貸与という業務は、利用者においしい弁当を紹介することまでしてこそ認められます。

高橋 日常のホール運営は近隣のお店、特に飲食店と無関係では成り立ちません。いろいろなお店のメニューは私どもも関心があるところです。その内容を皆さんに紹介して喜んでいただければ嬉しいですから。そのような情報は市民の皆さんからもいただくことがあります。

Q そして施設内は、いつもきれいになっていますね。

高橋 清掃担当の方、設備担当の方、警備担当の方とも世間話などいろいろな話をさせていただきながら日々の情報の共有を図って連携をとっています。また、技術打ち合わせ表や制作打ち合わせ表なども事業課、管理課、受付インフォメーションだけでなく清掃、設備、警備、レストラン「はな」などにも配付します。ホールのどのセクションにも今日、明日、明後日、何をどんなスケジュールで行われるのかがわかる体制をとっています。そのことにより清掃スケジュールが立てやすくなり、きちんと清掃作業ができるようになっています。このように分け隔てなく全部署へ情報を流すことは、それぞれの部署に責任感とやる気が出てくるものです。

Q 外部から見て、守衛さんもよく動いていますね。

高橋 守衛さんはホールの内外はもちろんですが、催しの状況なども見てくれています。たとえば、ギャラリーでフラワーアレンジメントの催しがあるとしますと、室内の温度が高過ぎないかをチェックしてくれます。高すぎると花が早く咲いて開催日には散ってしまうので、仕込みの日は2°〜3°低めに設定するなどの配慮をしてくれ、心憎いほど頼もしい陰の力持ちでもあります。設備さんとの連携もスムーズです。

Q 地下には「さいたま文学館」がありますね。これはどのようなものですか。

高橋 これは埼玉県の施設で、併設されています。埼玉県出身の作家や埼玉県ゆかりの作家の原稿や初版本などの展示、また企画展なども行っています。市民ホールとの連携事業も盛んに行っています。映画の上映会は、その都度テーマを持って行います。その他、今流行の作家の講演会も年一回の恒例事業になっています。今年度は北村薫さんをお迎えして、文学館職員のインタビュー形式で進めます。私も舞台設営と舞台進行を担当します。平成21年2月14日です。是非お越しください。

Q 高橋さんも大活躍ですね。ところで、楽屋には技術スタッフのお名前を提示してありますね。

高橋 ホールを利用していただく方々に私たちの名前を覚えていただくと有り難いです。私たちも利用者の皆様のお名前を覚えるようにしています。お互いに名前を呼びながらの会話は素敵なことだと思っています。

Q 経験豊富できちんとしたポリシーをお持ちの高橋さんがいらっしゃるので、委託スタッフも働きやすいのではないでしょうか。

高橋 みんなが個々、自分で感じ、自分で考え、自ら行動することが大切だと思います。互いに考えたことを話し合い、統一された方向に向かうことが、いい結果をもたらすと確信しています。皆さんには、いつも感謝しております。

Q その環境で、経験を活かして、日常必要な便利なものを揃えていて、利用者が求めると大抵のものは叶うようになっている。

高橋 いつも理想の状態を創造して、創意工夫することが大切であることをスタッフみんな知っています。また利用者はそれを求めていると思います。あとは実行する環境と提供する場を考えていくようにしています。ときには搬入口が作業場になったりします。

Q 最新の整備があるから優秀なホールできなく、最新の技能も古い技能も持っている劇場技術者がいるから、使いやすい市民から親しまれる施設になっていきます。

高橋 最新の設備でも、使う側の創意工夫がなければつまらないです。私たちは、市民の皆様は高価な設備よりも創意工夫を喜んでくれることに気付きました。それは私たちも楽しいことです。設備は使い方が肝心です。桶川の場合、音響反射板の正面の部分だけを使って上手下手の飾りを付けたり、吊り物などでアクセントを付けたりして第九のコンサートや演奏会などを行っています。いろいろなアイディアを提供することで利用者の皆様も喜んでいただけていると思っています。

Q 施設内にある「レストランはな」の名称は、飼い猫の名前だそうですが、私の家の猫と同じ名前なので親しみを感じていますし、ここで焼いているクロワッサンは大きくて旨い。このレストランは、ホール利用者の常連さんの待ち合わせ場所、打ち合わせ場所になっていて、とてもいい雰囲気ですね。

高橋 そうなっているようです。主催、共催、貸館を問わずチケットの半券を提示すれば10%オフにしてくれます。スタッフや関係者などにも同様にしていただいています。いろいろなサプライズ企画にも積極的に提案してくれたりするので「ホールはな」のようなときもあります。

Q これからの計画をお聞かせください。

高橋 市民ホールで働く全部署の方々は、立場が違っても想いは同じだと思いますが、それは、「お客さんを創っていくこと」だと考えています。施設を利用されるお客様は、ホールにいろいろな可能性を求めています。その実現には、お客様のご理解と協力が不可欠です。私たちはホールを運営し催しを創ることはもちろんですが、「お客様を創る」「利用者を創る」を主眼において運営したいと考えています。利用者の皆様が創造的であって欲しいので、そのための場としていろいろな試みに前向きに挑戦したいと思っています。その一つとして、市民窓口相談も私が担当させていただいております。いろいろな企画が実現できるようにすることが、その窓口の第一歩としています。そこで相談を受けたことを皆なで考え、上司にも相談しながら推進しています。このことで、創造する利用者を育てていければと思っています。

Q とても素晴らしいことをやっていますね。よい観客、素敵な利用者を育てること、これは劇場やホールの経営の基本で、優良ホールの手本です。これからは、こういうポリシーを持った指定管理者こそが、生き残れるのではないでしょうか。期待します。

響の森・桶川市民ホールは700席の多目的ホールで、この他にリハーサルや小規模コンサートなどに対応できる仮設席150席のプチホールがある。
練習室や会議室も多く、いつも市民の出入りがあり賑わっている。この陰には、この施設の中で働く全スタッフのチームワークがある。その雰囲気を醸しているのがホールの技術スタッフである。(取材・八板賢二郎)