優良ホールを訪ねて

中京大学文化市民会館(名古屋市民会館)

2009年2月1日取材


名古屋市民会館の最寄り駅は金山駅である。金山駅は、名古屋鉄道、JR東海、市営地下鉄の駅があり、金山総合駅と呼ばれている。名古屋駅に次ぎ名古屋の第二の中核を担うターミナル駅で、名古屋の南玄関口となっている。近くに繁華街があり、名古屋名物・手羽先の発祥の店もある。

当会館は、同市の人口が200万人に達したことを記念して、1972年に「芸術文化の振興及び市民福祉の向上を図るため」に建設された。開館以来、東海地方を代表するホールとして、内外のオーケストラ演奏会やポピュラー音楽、歌謡曲などのコンサートのほか、演劇、舞踊、講演会、式典などに利用されている。主な施設として大ホール、中ホールなどを備え、財団法人名古屋市文化振興事業団が指定管理者として管理・運営している。なお2007年7月1日から、中京大学がネーミングライツを取得したため「中京大学文化市民会館」と名称を変更した。

当会館の歴代技術スタッフたちは、東海地区の公共ホールにおける管理運営の技術向上のためにリーダーシップを発揮してきた。また、技術面だけでなく、効率よく運営するためにさまざまな試みをしている。

日本音響家協会の運営にもご尽力いただいている中京大学文化市民会館の丹羽功さんを訪ねて、会館管理運営の進化状況を伺った。

Q 貴財団が管理運営している施設は、いくつでしょうか。

丹羽 現在、大、中、小規模ホール、能楽堂、練習施設、スポーツ施設など、あわせて25施設を管理運営しています。

Q 全施設の総スタッフ数はどれくらいになりますか。

丹羽 職員、嘱託、派遣をあわせて132名です。

Q 中京大学文化市民会館のスタッフ配置は?

丹羽 舞台運営にかかわるスタッフは職員と委託さんで17名おり、舞台6名、音響5名、照明6名です。

Q 施設ごとに専門のスタッフが配属されているのでしょうが、ときどきは相互に応援に出かけたりもするのでしょうか。

丹羽 各ホールには舞台、照明、音響の専門スタッフが配属されています。市民会館は舞台、照明、音響の専門スタッフと委託さんでして、小劇場は13館ありますので職員の担当する専門業務は異なりますが、例えば舞台を劇場職員、音響、照明は委託という形で対応しています。中京大学文化市民会館に隣接している音楽プラザには技術職員がいませんので、会館の技術職員が機器のメンテナンスやサポートをしています。自主事業のときは、職員の研修を目的とした応援も行いっています。他の施設に行くことで、職員のスキルアップになっていますからね。

Q 以前、職員のリストラが行われようとしたとき、今でいうワーキングシェアーなるものを実施したと伺っていますが。

丹羽 残業時間の削減を目的とした、勤務体系の変更を行いました。どこのホールもそうだと思うのですが、催し物が勤務時間内に終了することは皆無といっていいですよね。以前は勤務時間を超えたところを残業という形で対応していたのですが、それだと残業時間が月に何十時間にもなってしまします。そこで残業の部分を休みとして取るという形で対応しました。1.5日働いて半日休みを取れる勤務体系を加え残業の削減を図りました。

Q 全体の人件費を削減して、リストラを切り抜けたのですね。そのためには、全職員の理解がないと実行できませんが、職員間の話し合いを幾度も持たれたのでしょうね。

丹羽 はい、職員の意見を組合が集約して、勤務のシミュレーションをして会社側と何度も交渉し、試行期間を設けて実行に移しました。

Q 先輩達は一丸となって、とても積極的に地域の舞台技術者の技能向上に貢献されていましたね。

丹羽 はい、市民会館設立の目的の中には施設管理だけではなく、舞台技術を含めたものを市民の皆さんへ提供していくということがありましたので、自分たちの持っているノウハウや知識を積極的に公開し、舞台技術者の技術向上を目指していました。財団法人全国公立文化施設協会でも技術委員長館として研修会の開催など先輩方の残した功績は大きいと思います。私たちもその精神を引き継いで頑張っています。

Q クラシックコンサートも頻繁に行われていて、録音に訪れた放送局の方々とのお付き合いも大切にしていたようですね。

丹羽 ホールの特徴を一番知っているのはやはり会館の職員ということで、いろいろなご相談も受けながら、いろいろな方々とお付き合いさせていただいております。

Q そのようなことで、広い見識をもった技術職員が多かったとお見受けします。

丹羽 オープン当初から職員で舞台操作を行っていく運営方針ということもあり、各分野でいろいろな経験を積まれた方が集まっていました。私も入社して先輩方から舞台芸術との関わり方、業界の仕組みなど幅広い知識を教えていただくことができました。

Q 早期にデジタル音響卓を導入しましたね。

丹羽 平成12年に舞台、照明、音響の大改修を行いました。そのとき、10年先を見据えて今後、音響の機器がどうなるのか検討し、デジタル音響卓の導入をしました。

Q そのときは先駆者としての意見を、また舞台スタッフからの要望をメーカーに提示したようですが、どうでしたか。

丹羽 私勝手な思い込みで、デジタル卓は万能マシーンで、何でもオペレータのやりたいことが自由自在にできるものだというイメージをもっていたのですが、実際デモ機を触りながら、いろいろな催物の設定、操作をシュミレーションしていくと、意外に制約があることを発見しました。システムまで注文をつけていくと、市民会館専用の卓となってしまい、トラブルが発生したときにメーカーさんが対応しにくくなってはいけないと考え、ハード面について、例えばパネルの文字の大きさや色、表示方法など、誤操作しないように見やすく表示すのなど、特に注意を払いました。また、客席や舞台下手に設置して使用できるリモコン移動卓も要望しました。

表示を見やすくわかりやすくすることで、長時間の操作でも疲れにくく感じられます。リモコン移動卓はリハーサル時に客席で、本番は音響室で操作するなど、今までとは異なった対応も行っています。

Q ますます、公共ホールはスリム化が求められています。

丹羽 そうですね。自分は技術者だから技術を担当していれば良い、という時代ではなくなりました。あるときは技術者、あるときは表方、あるときは事務方というように、一人で何役もこなさなければなりません。

Q 音響の専門家でありながら、オールラウンドに仕事をしなければならないのですね。

丹羽 そう思います。少し前までは、音響以外に舞台や照明もできなくてはいけないといっていましたが、今は舞台業務以外の施設の管理、催物の企画運営など施設や文化芸術に関することなど、すべてに目配りをしながら仕事をしていかなくてはいけないと思います。私も昨年まで音響とは全く異なった文化事業部に勤務していまして、催物の企画運営や企業への協賛依頼、企画募集などを担当していました。異動した当初は、何が何だかわからないことばかりで、早く現場に戻りたいとばかり思っていましたが、今となってはその経験が自分にとって、とてもよかったと思います。

Q 音響技術者が音響調整卓に籠ってはいられない。

丹羽 音響技術者といえども、ホールの安全管理のための監視や指導、または他のパートのサポートもあるので、毎日、舞台を走り回っています。音響さんの定位置は、今では音響調整室ではなく舞台上になっています。

Q ホールの空き状況をホームページで拝見すると、よく埋まっていますね。

丹羽 はい、指定管理者として応募し、事業計画書に目標とする利用率も表記しています。積極的に企業や学校へ営業に出かけて、新たなホール利用の方法や企画のアドバイスをするなど、利用率達成の努力をしています。また、類似ホールの閉館も相まって利用も増えているのかと思います。

Q 営業は必要ですよ。昨年の利用者から今年の利用申し込みがなかったら、すぐに訪問して、何かご不満があったのかなどを聞いて来るぐらいの努力が必要ですね。事務所でふんぞり返っていたのは昔の話です。

Q ネーミングライツは、民間企業の名称を冠するので、財団職員の意識も大きく変化したのではないでしょうか。

丹羽 お客様への対応、言葉使い、身だしなみ、すべてが直接企業イメージへつながりますので、職員も気を引き締めています。

Q そういう考えに達したということは大きな成長です。360度、さまざまな角度から市民会館を見つめていないと通用しなくなりますから、とにかく忙しくなりましたね。

丹羽 人員を削減していることもありますが、舞台だけでなく、劇場の運営にかかわるものすべての業務を理解しなくてはいけないと思います。〇○担当だから分かりませんなどとは言っていられない状況です。

Q 市民に喜ばれる施設として、特にどのようなことを目標にしていますか。

丹羽 一流ホテルや有名なテーマパークのように、何度でも利用したくなる、来館するだけで心が和み楽しくなる、そんな施設を目指したいと考えております。

Q それは素晴らしい。市民のためのワークショップもいくつか開催しているようですね。

丹羽 子ども向けのワークショップ、65歳以上の方々のためのワークショップ、舞台初心者向けの施設説明から総合舞台劇術までと幅広く、いろいろ開催しています。財団管理運営の全施設では、年間130以上の企画を開催しています。

Q 気分よくホールを使っていただかないと、次は余所のホールへ行ってしまいますからね。

丹羽 一度利用していただいた方には、次回もぜひ利用していただけるように、お客様の気持ちになり仕事をしていくよう努力しないといけないです。

Q これから公共文化施設として目指す形は、どのようなことですか。

丹羽 基本的には今の形と大きく変わらないのですが、あくまでも文化芸術の縁の下の力持ちでありながら、利用する方々のレベルに合わせた対応や助言ができるように幅広く勉強して、わからないことがあったら施設へ相談すれば解決してくると言われるような施設になりたいです。

Q いまやホールとしてではなく、そこを運営する指定管理者が評価される時代になりましたね。

丹羽 ホールを利用する人たちだけなく全く知らない方々にも、中京大学文化市民会館とはこのような施設で、いろいろな文化芸術の振興発展を目指してしています、と市民の皆さんに積極的にアピールをしてまいります。

Q 中京大学文化市民会館という名称を積極的に口にすることで、そこで働くスタッフの意識は大きく変化します。また役所の雰囲気を排除することで、民間意識が高まります。このような意識改革が全国に徐々に広まっています。昔の形に後戻りするような国になったのでは滅びてしまいます。ダーウインが言うように、強い者や賢い者が生き残れるのではなく、時代に即して変化できる者が生き残るのである。貴事業団が全国の指定管理者の範となるよう期待します。

名古屋市文化振興事業団が運営する本拠地中京大学文化市民会館は、2,296席の大ホール、1,149席の中ホールがある。その他にリハーサル室2室、会議室3室がある。名古屋市文化振興事業団が管理運営する施設は、中京大学文化市民会館、名古屋市公会堂、名古屋市芸術創造センター、名古屋市青少年文化センター(アートピア)、名古屋市能楽堂、音楽プラザ、演劇練習館(アクテノン)、市民ギャラリー栄、市民ギャラリー東、東山荘、短歌会館、上社レクリエーションルーム、他に小劇場を13館など25施設になる。施設が多いだけでなく広範なジャンルの舞台芸術を市民に提供している。(取材・八板賢二郎)