優良ホールを訪ねて・・・その12  2008年8月取材

大阪府貝塚市・コスモスシアター


貝塚市は、大阪府の南西、大阪湾に面したところにある。貝塚は昔、海塚(うみづか)と書いたらしい。縄文時代の貝塚跡があったからではないらしい。
貝塚市民文化会館は、市の花がコスモスであることなどから、コスモスシアターという名称が付いている。1階部分にホール群が、2階部分に貝塚市中央公民館、3階部分に青少年センターがある。会館の1階部分を財団法人貝塚市文化振興事業団が管理運営している。
何事にも積極的で、お役所仕事ではなく本格的な劇場運営をしている。観客、つまり市民の意識を見据えて企画して、多くの観客を集めて、市民の交流の場を創造している。きっと経験豊かな劇場人が運営しているに違いない。日本音響家協会会員で、当会館の制作を担当している山形裕久さんに運営方針を伺った。

Q 自主企画公演が多いようですが、指定管理者になる前からですか。

山形 指定管理者制度に移項になる2年程前から、自主企画公演や自主企画制作公演の作品作りを意識的に増やして行きました。当初は、自主といっても大半が買い公演で、自主企画においても制作会社にブッキングや現場をほとんど依託していたようです。

Q 指定管理者として指名され続けるためには、大変なご苦労があると思いますが。

山形 自分自身は制作会社の出身ですから、それなりの攻め方や守り方は分かっているつもりですが、そこに政治と経済が絡んでくると、防戦一方の非常に弱い立場に追い込まれることから、利用率等に関しても、顧客や観客のホスピタリティーと、同様に創客の努力と研究をしています。

Q 制作の面ではいかがでしょうか。

山形 私たちは、特徴のある事業団を目指していますので、職員の人選と意識改革に3年程かけて、現在の体制を確立しました。現在も企画制作面の強化中で、企画力、制作力、プロデュース能力のさらなる向上を目指しています。あわせて、いかに安く、クオリティーの高い催しを独自で開発できるかを目標に掲げて、地域文化と広域文化の融合を目指しています。ありきたりのコメントですが、「地域の方々に愛され、親しみやすく、良質の文化情報の提供と、市民を取込んだ舞台芸術の創造の場」を確保するために、市民を取込んだ斬新な参画型と参加型の事業を開発して展開することが、指定管理者継続のためのアプローチの一つです。

Q そのために、財団職員をフル活用しているわけですね。

山形 財団職員は制作室が5名、総務室が1名、他に市のOBが1名、派遣が2名、計9名で大・中・小のホールと練習室や会議室の保守・管理運営・貸館・自主事業に対応しています。職員総動員ですね。チケットカウンターはアルバイトさんに頑張ってもらって、どうにか回っています。

Q 指揮官がまず動かないと、組織は動いていかないですよね。

山形 職員に悔いのない仕事をしてもらうためには、彼らに適切な時間を与え、机上の空論でなく身体を動かして覚えるものだと理解してもうことです。

普段の雑務や、花壇やプランターの雑草取りと植替え、その他諸々やります。私は植木屋さんと間違われたこともありまして、そのとき職員は笑いをこらえていましたがね。それと、自転車に乗ってポスター貼りに出掛けることもやりました。周囲は慌てますが、自分が率先して動く、それを見て職員がどう反応するかが楽しみなんです。

Q それでは煙たがられるからと嫌う人もいますが、そうやって、民間のように動かなければ生き残れないと思いますね。いま、若者が自分の身の安全ばかり考えている傾向にあります。山本五十六語録で指導しなければ育たないと思います。

山形 「やってみせ 言って聞かせて させて見せ ほめてやらねば 人は動かじ」ということですかね。

Q ところで自前の企画だけでなく、周辺のホールなどでも公演をやっていますが、一つのホール管理業務だけでなく、プロダクション業務にも着手していますね。

山形 確かに、制作プロと区別がつかない部分がありますね。地域創造(財団法人)のステージ・ラボの講師をしたことから、「企画の立て方やアーティストを紹介してほしい」など、さまざまな問合せがありました。そこで、志を同じくする会館と「公立文化施設舞台芸術研究会SASA」を立ち上げて、本格的に動きだしました。当初は、ネットワーク事業としてスタートしましたが、予算が合わなくて困りました。基本的には、アーティスト制作協力事業という自主事業枠内ですが、公共文化施設限定企画として、プロデュースから構成・演出・舞台監督・美術・音響・照明・楽器に至まで、当館で制作全体を仕切っています。さらに、アーティストによっては、ツアースケジュールから移動行程や宿泊の手配・管理まで、すべての制作運営を任されることがあります。自分も、演出・舞台監督で旅回りをしています。老体にムチ打って道具方から照明、音響まで手出し、口出しをしているので、スタッフはきっとやりにくいと思っています。他の職員も舞台監督や制作で旅回りをしています。

Q このプロジェクトの輪は関東にまで来ましたね。
通常の公共ホールはアウトソーシングして、職員が監視役なるのが常ですが、皆さんは委託技術者と一緒になって舞台作りをしていますね。監視しているくらいなら手伝えということですよね。

山形 余談ですが、「赤い鳥」というグループが解散した後「紙ふうせん」で旅回りをしていたとき、私たちは舞台スタッフのことを、「クルー」と呼んでいました。この呼び方は、業界で最初に使っていたかと思います。
そんなわけで、職員に委託技術者や出入り業者と区別した見方や言い方をさせていません。全員、コスモスシアターという船の乗組員であると共に、ひとつの作品を創造する運命共同体だと考えるからです。また、貸館受付や利用者との打合わせをするとき、仕込み手順などの経験があれば、利用者にちょっとでもリアルな説明ができるだろうと考え、職員も現場で一緒に汗をかいて勉強することにしています。

Q それこそ優良ホールの条件です。そしてスタッフの地位も認め、クレジットもしっかりやっている。

山形 すべてにリンクしてくることですが、市民に創り手の顔が見えるモノ創りと、自信を持ってモノ創りすることが大切だと考えています。なかなか表に出てこない裏方の氏名を公開することで、自身の責務を果たしてもらうための手段です。それなりの効果が出始めています。また、若手組が将来、自身で企画やプロデュース公演などを実現できる立場になり、企業メセナや省庁に公演の助成金などの申請書に、過去の公演記録やクレジット記録などの添付が必要になったとき、有効な資料になると思います。もちろん本人が資料を保存していればの話ですが。

Q 英国に行くとクレジットされたプログラムの提出を求められることがあります。それで技量を判断するわけです。日本でもそのような評価方法を採るようになるとよろしいですね。そのような動きに持っていかなれば、私たちは進化しないですね。

山形 市民参加のプログラムもユニークなんです。それは対象の年齢層が広いということです。市民参加型と市民参画型の2パターンを基本にして、両方の要素と鑑賞型を取り入れたものなど、様々に変化します。年間事業の7割弱が何らかの型の参加型事業で、「眠れる才能を叩き起せ」とキャッチしたWake Upシリーズは、市民参加型の才能発掘企画として、「西村由紀江ピアノクリニック」「ピアノリレー」や、ワークショップから本公演に至まで2年に渡る参加型事業の「芝居の一歩」と「コスモス・オリジナル・ミュージカル」などがあります。ロビー活性化事業と位置付けた「懐音再生」は、レコードを持ってホールに遊びに来て頂くレコード観賞会で、催しの一部を地元のミニFMで生放送しています。また、参画要素をプラスした「芸術の発芽(め)」「音のたね」は市民アーティスト育成事業の中核として人気があります。キャットハンド(猫の手)というホールボランティア養成講座は、初級は90分の講義と実習を9回、最長11回受講して、はじめてバックステージパスを手に入れることができます。受講者も10代後半から60後半までと幅広い年齢層ですが、皆さん頑張ってお手伝いしていただいております。

Q いずれの企画も参加者が多いですようですね。
財団としては、職員の将来を考えて、いろいろな手を打っているように察しますが。それは自立ですかね。

山形 そうですね。最終的には自立が出来ればいいですね。

Q 法人とは、しっかり運営して、職員、その家族を幸せにすることも必要ですよ。ちょっとした気の緩みが命取りになったりもしますから。

山形 その通りですね。仕事に対して自信と誇りを持って、志気を絶えず維持していなければなりません。脇を締め、足下と未来を見つめて仕事に掛かるべきです。

Q 最後に公共ホールの在り方について、どのようにお考えですか。

山形 当館の在り方の話をさせていただきますと、地域文化の活性化は、そのまま地域の心の豊かの指標に繋がり、古くから伝わっている伝統文化やワークショップを始めとする現行型市民参加事業は人と人との触れ合いや結びつきで、地域の一体感を高める役割をするのが、地域文化の中核的存在の文化ホールであると考えます。また創造活動は、文化的活動で地域を活性させ、人や物が集まる核になる役目も合わせ持っていると思います。
文化に対する価値観や考え方は、個々の感性で大きく変わるものです。
舞台芸術に触れるためにホールを訪れる直接的な価値、ホールに付随する他の設備を利用する間接的な価値、いつか行きたい利用したいと思う選択的な価値、自分の興味は別にして子供たちに残したいと思う価値、ホールに行かないが我が街に立派な文化ホールがあると思う存在的な価値など、これらすべての価値観が凝縮したコスモスシアターでありたいと思っています。しかし、加速的に急変して行く文化環境の時の流れに巻き込まれながらも、地方の小さな街の中小規模館でも文化芸術の拠点になれると思います。

Q 市民の価値観の違いを意識して市民のシンボルとなるように運営をすることは良いことですね。
まずできることから、またはできるように工夫することが賢い人のやることですね。コスモスホールの公演内容を見ると、その姿勢が理解できます。公共ホールのお手本として、さらに進化することを期待します。ありがとうございました。

 

1,224席の大ホールは、残響時間が1.4〜2秒のクラシック音楽を主とした多目的ホールである。中ホールは483席で、その内243席がロールバックで後方の座席の下に格納され、パーティー会場としても使用できる。仮設100席の小ホールは、リハーサルやパーティーなどにも利用されている。他に2つの会議室、そして練習室がある。設備としては標準的なホールであるが、ここで開催されるイベントは注目すべき内容である。プロの手による、市民のニーズに応えたプログラムである。(取材・八板賢二郎)