優良ホールを訪ねて・・・その11 2008年5月取材
東京都・渋谷C.C.Lemonホール
1964年の東京オリンピックで、三宅義信氏が金メダルを獲得した重量挙の会場となったのが渋谷公会堂である。若者から「シブコー」と呼ばれるコンサートのメッカである。その公会堂は、平成17年7月から約1年かけて大改修を行い、また、ネーミングライツで渋谷C.C.Lemonホールと改名し、装いを新たに指定管理者の手で運営されている。
これまでの指定管理者は、多かれ少なかれ運営補助金を受けて、制約の多い中で苦労しているのが現実である。補助金は無いが、柔軟に運営できるシステムは創造意欲も湧くので魅力的である。
そのような運営をしている渋谷C.C.Lemonホールの指定管理者、株式会社パシフィックアートセンターの小川富市さんを訪問して、その実態を伺った。
Q 幾つかの会社の協力で運営しているのですか。
小川 株式会社パシフィックアートセンターが指定管理者となって、様々な会社の協力を得て運営しています。
Q 全くの補助金なしで、指定管理者の営業力で運営していると伺いましたが。
小川 区からの補助金はありません。
Q なにか、運営する上で、区からの制約はあるのでしょうか。
小川 協定書・渋谷区条例・公会堂条例など制約は色々とありますが、指定管理者となりまして約2年が経ちましたが、渋谷区担当課の柔軟な対応に対して非常に感謝しております。
Q そうですか。米国にいる友人にこのことを話しましたら、それは米国式で健全な方法だと言っていましたが、かなりの営業努力が必要なのではないでしょうか。
小川 立地条件が良く、渋谷公会堂時代からの流れがありますので稼働率が高く、現在のところ会場利用料、延長料、付帯設備費などで運営しています。
Q 収益を生み出していくには、舞台のことだけを考えていては難しいのではないでしょうか。
小川 自主事業などによる収益、また当ホール限定のグッズなどの販売なども進めていっております。
Q そのように売るものがあるということは羨ましいですね。
小川 ネーミングライツのサントリーさんにお願いして、飲料水の自動販売機をホール外に5台、楽屋口に1台設置しています。これも多少の収益になっております。
Q 昨年の夏は猛暑だったから売れたでしょうね。指定管理者として設備投資をして、その設備や備品を貸し出したりもしているのですか。
小川 設備投資としては、吊りスピーカ用のチェーンモータ、衛星中継用の光ケーブル設備の新設をしまして、それを貸し出しています。また、公会堂備品以外のあらゆる機材の貸し出しや、ホームページの催物告知料、催し物の看板製作でも収益を上げています。
Q 巨大な電子ボード設置計画をしたそうですが。
小川 ある試写会のときに、公園通りからホール入口までレッドカーペットを敷きたいという提案がありましたが、正面入口の広場は渋谷区の管轄であるため区に相談しました結果、混乱を招くおそれがあるため承諾されませんでした。そこで、次にホール正面入口のガラス壁面全面にLEDを吊るし、映像を映したいという提案を関係各所に相談した結果、設置状況等には問題がないとのことでしたので実施することになりました。本番当日、設置作業も順調に進みテスト投影を開始、ホールスタッフも見学、非常に素晴らしく、当ホールに常設できれば色々と活用することができていいな、との話もしていました。
その後、区の担当課から連絡があり、今行っている映像の投影は屋外広告物にあたり許可申請の提出がないので確認したい、とのことでした。そこで初めて担当課に申請書を提出していないことに気付きましたが、確認の結果、屋外広告物として「東京都屋外広告物条例」により、この大きさのLED等点灯物に関しては一切許可することができません。条例違反となります。との結論でした。
最終的には20㎡以内の静止画像であれば何とか許可しますということでしたが、その後中止という結果になりました。Q とてもいい企画なのに残念でしたね。条例に抵触しなければ、評判の設備になっていたことでしょう。それにしても、さまざまな法律を知らなければ大変なことになりますね。
小川 色々な意味で勉強になりました。当然のことですが、指定管理者は舞台技術だけではやっていけません。幅広く勉強しておかないと大失敗をしてしまいます。
Q 私は東京オリンピックのとき、重量挙のテレビ中継のカメラアシスタントとして2階席にいました。その頃とは周辺のロケーションも変わり、夜に訪れると日本ではない雰囲気になっています。中に入ってみたい不思議な気持ちになりますね。
小川 ありがとうございます。夜間はライトアップもされて評判も良いのではと、自己満足しています。現在、さらに正面広場などを含め、ライトアップを検討しております。人を呼ぶには、外観も大切ですね。
Q 公共施設は、公演のときだけでなく、いつも大勢の人で賑わう仕掛けをしなければなりません。名物のレストランなどが必要ですね。
小川 地下には『キッチンクワトロ』というレストランがあります。営業時間は11時から18時までですので、主にランチをメインに営業しております。また、2階にはC.C.Lemon STANDという喫茶コーナーがありソフトドリンク、アルコール、軽食などの販売をしています。まずまずの評判です。
Q ホールは空間と時間を貸しているので、上手に埋めていくことが必要ですね。
小川 そうですね。空いている時間と空間をどのように利用するかが今後の課題であると思います。
Q またこのホールに来たいと思わせる工夫も必要です。
小川 公演内容だけでなく、休憩中のロビーの雰囲気やサービスも大切ですね。これからは正面入口の広場から雰囲気づくりをしたいと思っております。広場が渋谷区の管轄になっておりますので規制もありますが、様々な展開ができるよう徐々にでも変えていきたいですね。
Q 借り手である主催者は観客の反応を気にしているのですから、観客の施設に対する反応がよければ、主催者はそのホールをまた使用しますからね。
小川 お客様の生の声というのが、なかなか直接伝わってこないことがあります。そこで役に立っているのがPBボードというモニタリングシステムの導入です。アンケート形式ですので、お客様の意見、要望、苦情などを拝見することができます。このような手段で、多少でもお客様の要望などに応えられるようにスタッフ一同努力しています。
Q 舞台のスタッフの対応も、より積極的に主催者の要望を叶えるように努力して上げたいですね。
小川 受け入れ側のスタッフとしては、当ホールのことを熟知していて、どんなことでも直ちに対応できるように努力し、相手の立場を思って接することが大事であると思います。またこのホールでやりたいと思っていただくことが上手な運営だと思います。利用者のリピートを高めたいですね。
Q あまり手の内を証したくないでしょうが、どのようなことを目指していますか。
小川 誰からも、愛され、親しまれるホール運営を心掛けていきたいと思います。ホール運営は、様々な人たちによって支えられてこそ、ご利用者の要望に応えていけるものと思います、渋谷区をはじめ、維持管理会社、企画支援や食堂、売店などの関係会社のご協力で成り立っていることを常に自覚し、今後もより「愛されるホール」を目指して、共に歩んで参りたいと思っています。
Q 日本の公共ホールの新しいモデルとして、頑張ってください。ありがとうございました。
■渋谷C.C.Lemonホールは、NHK放送センターの隣にある施設で、若者が溢れる渋谷の繁華街を過ぎたところに位置する。
施設は、2084席のオーケストラピットを有する多目的ホールだけである。なんともシンプルで、ホール管理運営だけに専念できるのが強みではないか。東京オリンピック以来であるから、既に築40年を過ぎているが、熟年ホールとして健在である。
渋谷区のホームページ内のページには、「渋谷C.C.Lemonホール専用サイトを開設しています。
このサイトは、渋谷C.C.Lemonホール(渋谷公会堂)の指定管理者である株式会社パシフィックアートセンターが運営しており、施設概要、イベントガイドなどをご案内しています。」とある。ここに指定管理者の顔が堂々と見えている。インタビューの中で、渋谷区との信頼関係も築かれているように感じられた。(取材・八板賢二郎)