[1981年4月 機関誌「音響」23th]

アメリカにおけるユニオンの実態

Kenneth John Lammers


Kenneth John Lammers 氏は、第一線で活躍中の舞台照明家で、日本生まれの米国人です。
氏は、外来アーチストの照明を担当したり、海外公演に舞台監督、または照明担当として随行したりすることが多く、アメリ力のユニオンの実状に詳しいので、それについて伺いました。
(この記事は1981年のものなので、現在とは異なっていることがあると思います)

           

──アメリカのユニオンについての実状とか、感じていることを聞かせていただきたいのですが。

Kenneth:アメリカのユニオンについては、私がアメリカで実際に経験してきたことを主にお話ししたいと思います。また、よく外国からタレン卜が来ると、ユニオンに入っているスタッフがついて来る場合がありますので、そうした人から聞いたことも、できるだけお話ししてみたいと思っています。

──アメリカのユニオンとはステージとテレビに分れているのですか。

Kenneth:分れています。私はステージのユニオンのことについてしかわかりませんが、それはステージハンズユニオンと言い、全国的な組織です。ただし、その組織は地方、または市ごとに細かく分れていて、ローカルユニオンと呼んでいます。 そして、ローカルごとに規則がだいぶ違っているようでした。この各ロ一カルのメンバーは、照明、音響などとはっきり分れていないようでした。各セクションのチーフははっきりしていましたが、兵隊はそのときの仕事によって、照明をやったり大道具をやったりしているようです。

──ロ一カルごとに規則が違うと言いましたが、どのように違うのですか。

Kenneth:たとえば、ロサンゼルス、サンフランシスコの劇場はたいへん厳しく、少し離れたオークランドではそう厳しくはありませんでした。ロサンゼルスでは始めから、ユニオンの人間以外は調光卓には触らせないと言ってきました。オークランドでは始めから日本人が調光卓に触っても良いと言われました。このように、地方ごとに規則が違っています。

サクラメントの場合は、劇場の舞台責任者はユニオンに入っていませんが、劇場の規定でユニオンのスタッフを使わなければならないことになっていました。けれども、その責任者がユニオンの責任者に交渉して、言葉の違いから特別に日本人がセッティング、または操作をやらせてもらいました。

そのときは、ユニオンの方で全面的に大道具の吊り物関係をやってもらうことになりました。だから、大道具2名とチーフ、照明はチーフだけ、音響もチーフだけ、合計5名で話がつきました。ただし、当日、小屋入りして30分ぐらいたったら衣装係のユニオンから電話が入り、「このショーは衣装がないものなのか」と聞いてきました。それで「ある」と答えたら、衣装係を一人付けないと駄目だと言ってきました。結局、衣装の女性が一人付くことになったわけです。

このサクラメントのユニオンは、全国でもかなり厳しいユニオンとされているにもかかわらず、我々のために大目に見てくれて、ロサンゼルスでは絶対に卓とピン、大道具の操作はユニオンの人間がやらなければいけないと言われていました。仕込み時間が結構少なく、本番ギリギリにセッティングが終わり、きっかけの打合せもできない状態でありました。これをみたユニオンの照明チーフが本番15分前で、やっと日本人に操作をさせてくれることになりました。 この公演中、私どもはアメリカ人のピンマンを二人連れて歩いていましたが、ここの会場ではやらせてもらえませんでした。

──その人達はユニオンに入っていなかったのですね。

Kenneth:入っていませんでした。この後、他の公演でも同じことがありました。そこの劇場では、日本人ならやってもいいがユニオンに入っていないアメリ力人は駄目という説明を受けました。
 やはり、ここでも言葉の点で問題があることから、いろいろと規則を曲げてくれることがわかりました。

サンフランシスコで、私たちは全部のルールを破ってやってきました。そこで、「あなた方は全部ルールを破っているので、どのように報告したら良いか分らない。本当のことを報告すれば、そのようなことを許したということで私たちも罰金になる。」と言って、結局は、なにも報告されなかったのですが、もう二度と、そこで働けなくなるという脅しが出ました。でも、ニ年後に行ったのですが全く問題はなく、小屋の方でもできれば来て欲しいというくらいでした。ただ、前回より小屋を借りるのにすごくお金がかかるので、こちらから逆にお断わりして、別の劇場にしてしまいました。その話を、日本のツアーに付いて来たユニオンの人に話したら、それは脅しだけであって、そういうことは全くないということでした。ユニオンの規定というのは脅しの上で成り立っているということです。

──ユニオンというのは、国が管理しているのですか。

Kenneth:違います。

──国からの補助とかバックアップはあるのですか。

Kenneth:ないです。

──ユニオンというのは、労働力の提供だけで、機材のレンタルはやっていないのですか。

Kenneth:労働力だけです。しかし、そこのユニオンを通して機材も借りてくれといえばロ一カルのレンタル屋から運んできてくれます。ただし、その労働力、運び賃もとられてしまいます。

そういえば、こういうこともありました。サンフランシスコでの話ですが、私の方で、小屋の下見に行ったとき通訳を通じて、袖幕を用意してくれるように頼み、何も問題が無く帰ってきたのですが、実際の公演の前の夜に行って袖幕が吊られていないので、どうしたのかと聞いたところ、それは、そちらで用意することになっていると言われました。そこで、どこか袖幕を持っているところはないかとたずねると、調べてくれたのです。

結局、物はあったがキャッシュで500ドルないとダメだといわれました。多少、高いと思いましたが必要なため借りることにしました。その後、ユニオンにいる友達に、そのことを話してみると、キャッシュでの支払いということは、そこのホ一ルマネージャはユニオンに入っているのに、自分のユニオンのボスを通さずに、別の小屋のユニオンの人に話して、そこの地下に眠っていたスペア一の袖幕を自分のトラックで運んで来て、500ドルを二人で分けたのではないかと話していました。そういうことがやられているわけです。

──ユニオンに入ることはむずかしいですか。

Kenneth:私の兄が、ユニオンに入っているのですが、ユニオンに入るのは、場所によって難しくなっています。ロサンゼルス、ニューヨークなどはメチャクチャに大変です。それこそ、自分の父が入っていないと入れないとかいうことを聞いたことがあります。それは自分たちの職を守るため、ユニオンの人数の制限をしているのです。ただし、田舎の方へ行くと、多少入りやすくなっています。

兄はケンタッキー州のレキシントンのユニオンに入っています。そこのユニオンに入っていれば、そこの地区に来る仕事、ローカルだから映画だろうが、ロックショーだろうがやれるわけです。 結局、日本でいわれるフリーと同じ状態なのです。

仕事があれば、ユニオンから指令が来るわけです。その順番が決まっています。しかし、ユニオンのメンバーが足りないときが絶対でてくるわけです。例えばレキシントンの場合、ロックショーが続けて三本くらい毎日あって、なおかつ劇場の方でもいつもと違う大ミュージカルが入ったとき、スタッフが足りなくなってしまうわけです。そうすると、アルバイト的なフリーの人に手伝ってもらうことになります。実際には、ユニオンのメンバーの兄弟、その友人などのような、どこの馬の骨かわからぬような人が呼ばれて来るわけです。

──員数合わせみたいなことでメンバーにしていくわけですね。

Kenneth:そのようです。それこそ試験があるのであれば技術がよくなるのでしょうが。よく、日本のピンスポットはすごくうまいといわれます。アメリカのユニオンの人たちのピンたきは、どうしょうもないらしいです。何故かというと、仕事に関しての気持がついていっていないといわれます。日本のピンは世界一だといって、褒めて帰る人がいるくらいです。何故かというと操作というのは、技術だけでなく、愛情をもっていないとだめだということです。確かにラスベガスに行くとピンマンはすごくうまいんです。

──すごいですよね。

Kenneth:それは、何故かというとそれは同じショーを何十回、何百回とやっているからです。

── あそこの人もユニオンですか。

Kenneth:ユニオンです。

──社員ではないのですか。

Kenneth:社員でユニオンのメンバーでもあるというケ—スもあります。兄の場合がそうです。兄は、そこの社員としては週40時間以上働いてはいけない規則があるのです。それ以上働いてもオ一バータイムは出ないのです。それ以上働くと、休暇で返してくれます。例えば休暇が100日とか200日になってきます。年間半分働けば、半分休んでもいいというくらいです。だから、そのようなとき、ユニオンのメンバー一でもあるとすれば、オ一バ一タイムになった時点から社員ではなく、ユニオンの人間になるわけです。その場合はユニオンから給料をもらうことになる。

いま、アメリカのユニオンで問題になっているのは、女性も平等に働かせなければならないということです。いままでは男性だけということが多かった。だから、いまユニオンに入ろうと思うならば、女性であれば意外と入りやすい。もうひとつは、人種差別もしてはいけないということになっています。だから、メキシコ人だとか、黒人の方がユニオンに入りやすくなっています。入れないと差別だといわれて批判されるわけです。そういうわけで、ステージにも女性が登場するようになってきたのです。

──ニューヨークはどうですか。

Kenneth:ニューヨークに関してはデザインから全部、ユニオンがやらないとダメだということです。だから、照明プランもユニオンの人間がやらないと駄目なのです。だから日本から行きますと、美術プランもそうですが、ユニオンのデザイナーが判を押してくれるわけです。それで、一応ユニオンの人がデザインしたことになってしまうわけです。そうしないとユニオンの道具の人が仕事をしてくれない。
日本でデザインして、それを送ってユニオンのデザイナーがサインしただけでユニオンのデザイナ一にお金がどっと入ってくる。デザイナーに関しては、意外と厳しいところがあるみたいです。

──ユニオンの悪い所、幣害などありますか。

Kenneth:いい点は、ユニオンのメンバー一の待遇が安定することです。悪い点は、待遇の安定をはかっているため、ユニオンのメンバーの報酬は高くなり過ぎています。だから劇場の中で、現在一番新しいものに向き合って、その成果を生みだしているのはプロではなく、大学演劇なのです。ユニオンで新しいものをやり始めると、失敗したら金がいくらあっても足りないわけです。
だから、普通は失敗するようなことはできないわけです。だから、オーソドックスな形でやる他はないのです。

──無難な線でやるわけですね。

Kenneth:そうです。

──大学の実験演劇は大学のホ一ルでしかやらないのですか。

Kenneth:そうです。一般の劇場ではユニオンの人間を使ってやるということになるので、研究としてはできないのです。

──大学にはユニオンが入っていないのですか。

Kenneth:廻ってくるショーがユニオン系統のショーであると、大学の講堂でやる場合でもユニオンのメンバー一を入れないと駄目なところもあります。イエロー力一ドショーというのがあり、その場合は、ユニオンのメンバーが大学の講堂に来ないと駄目なのです。ニューヨークの、例えばブロードウェイから出たミュージカルやショーであるとイエローカードショーが多いです。UCLAであると、普通はユニオンの小屋ではないけれど、そのショーが入ってきた途端にユニオンの小屋になるのです。

──その場合、現地のユニオンのスタッフを雇うというケースが多いわけですね。

Kenneth:そうですね、でも、もうひとつのシステムがあります。イエロ一カードショーだろうがノンユニオン(ユニオンでない)ショーでもユニオンの小屋に入れば、連れて来た人間一人に対してロ一カルのユニオンから一人を雇わなければならないのです。イエローカードショーでピンに4人連れて行くとすればローカルからも4人を雇わなければ駄目です。するとピン4台に8人付くわけです。これが、ユニオンのメンバー一同志であると連れていったメンバー一にやらせてくれるらしいですが、厳しい小屋だと駄目だということで、ステージマネージャのいう通りピンを操作することになる。

だから、ピンの人を連れて歩くことはあまりなく、ローカルのユニオンのスタッフを雇って、ステージマネ一ジャのキューでツアーをするものが多いです。

── ステージマネ一ジャの仕事も大変ですね。

Kenneth:大変です。照明と道具のキッカケを全部出します。音響にも出します。

──舞台監督もユニオンですか。

Kenneth:イエローショーの場合は、ユニオンのメンバー一を連れてきます。日本から行ったときは、私がステージマネージャで全部キューを出しました。ユニオンの人間が、そのとおり動いてくれました。ただし、照明はこちらのオペレータが操作したので、私は道具関係のキューだけ出しました。でも、普通アメリカ人のツアーが来れば、ステージマネージャが全部にキューを出すというのが普通です。日本では、ステージマネージャとアシスタン卜がいて、アシスタントが照明の方にキュー出しして、ステ一ジマネージャーは道具に出すとか、せいぜい二分担です。

──統一されたキューの出し方とかがあるのですか。

Kenneth:ある程度適当です。それがなんでわかるかというと、アメリカからやってくる人のキューが全部適当だからです。ピンのキューひとつにしろ、ブラックアウ卜だとか、カッターアウ卜だとか、ダウザアウ卜だとか。でも大体決まっています。ツアーの経験が多ければ多い人ほど統一しています。

──効果音などですと、そういうキューではシビアに音が出ていかないのですね。キューをもらってからでは遅いのです。

Kenneth:今は特に効果音をテープで出しているのが多いでしょ。昔は雷を鳴らすのに何かころがしたりしているときは、完全にステージマネージャがキューを出していたらしいですよ。

──ということは、ユニオンは音に関してあまり厳しくないということですかね。

Kenneth:音に関してはそうですね。

── スタジオは厳しいらしいです。ロサンゼルスなどでは、マイクロホン一本動かすのも大変だっていう話を聞きましたけど。

Kenneth:ユニオンの人はお金欲しさに動いている、だから袖の下さえ出せば何でもできる、などと言っている人もいます。僕の経験では、アメリカのユニオンは厳しい厳しいといいながらもやり方ひとつによって、人間関係がうまく行けば楽しい雰囲気で仕事を進められるのです。意外とユニオンも折れてくれるというか仲良くやってくれます。それから、こちらから機材を持ち込んだ場合、たとえば、それが非常に高級な機材だとか、彼たちが見たこともないような機材であれば、それに関してはこちら側にやらしてくれます。完全にのけものにしようとするのではなく、できるだけ一諸にやりながらできる限りのことをやれば、うまく仕事を進行することができます。

──ユニオンというのは厳しい規定もあるでしょうけれど、人間関係さえよくやればうまくいくということですね。

Kenneth:僕たちが行ったときは、「このグループでやったら最高だ、若返った気持ちで仕事でき楽しかった」と言ってどこでも送り出してくれました。

──ギャラなどにランクがあるわけでしょうけどそのランク付けは、どういう規定でやっているかおわかりですか。

Kenneth:チ一フクラス、向こうで俗にいうヘッドと、一般クラスと、二通りあります。それからユニオンによって違うのですけど、時間の規定があるわけです。食事も何時から何時までしないとダメだとか、4時間仕事をすれば1時間の休憩がないと駄目だとか。それをオーバーすれば、今もらっている1時間分のギャラの1.5倍も貰えるとか、深夜は2倍という形になっているのです。

──そのランクもユニオンが定めるわけですね。

Kenneth:そうですね。だから、この仕事でチーフでも次の仕事ではチ一フじゃないということもあります。

──それを決めるときには、経験年数とかが関係してくるわけですね。

Kenneth:おもに経験年数ですね。

──たとえば、ある地域に30名いるとしますね。常に30名の一番目の人から30番目の人まで均等に仕事は貰えるとは限らないわけですか。

Kenneth:限らないです。

──そこで、袖の下かなんかいるのですか。

Kenneth:いや、メンバーに関しては、そういうことはないようです。できるだけ均等にしているらしいのですけど、やはり、仕事の出来る、出来ないで決めることがあるようです。

──雇う側としては指名をできるのですか。

Kenneth:ええ、以前こういうメンバーでやったので、できれば同じメンバーでやりたいといえば0Kです。ただ、その段階で、袖の下じゃなく、逆に指名料みたいなものを取られる可能性はあります。

──ユニオンのメンバーがプロデューサ側に売り込みに行くこともありますか。

Kenneth:それはもちろんあります。それは、個人的にあります。特にデザイナークラスは。アメリカという国は、あくまでも自分の売り込みが大切です。ツアーに付いた方が金になるわけですから。

ある時、ペーペーの人が、ユニオンのカーペンタのヘッドに口答えしたのです。すると「お前出ていけ」って言われて、次の人が入ってきました。もうその人は仕事なしです。後で「あの人、今後どうなるの」と聞いたら「たぶん、もう、ここでは仕事できないだろう」と言っていました。ですから、そこの小屋のヘッドをやっている人は決まっているので、下の人というのは、そのヘッドに売り込んでいるらしいのです。

──ユニオンの仕事がないとき、他の仕事をやってはいけないのですか。

Kenneth:いや、自分の本業をやりながらユニオンに入っていても良いわけです。ユニオンルーズといって月々決まった金額を自分で働いたお金から差し引かれるか、払い込むかするわけです。そのかわり、ある程度の保障をしてくれるという感じです。

だから、それを払わなくなった段階で仕事は回ってこないし、ユニオンから一時的には追い出されてしまうことになるわけです。

──戻ることは出来るわけですが、権利はありますか。

Kenneth:権利はあります。

──権利を末消されることは無いですか。

Kenneth:余程ひどいことをしたときはあるでしょうけど。ユニオンの存在は、働く側とすれば、すごく理想的なことだと思いますが、それによってお金を稼ぐためだけの芸術になってしまうとわびしいなと思います。■